fumix/海賊船クルー      しかし船が設計できないのでもっぱら建物を設計している 


by fuming_century
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じいちゃん

半径5km。
栃木の実家を中心にして、それがじいちゃんの移動範囲。

一緒に暮らしていた頃からこれまでの20数年間、
じいちゃんがこの街を離れた姿を僕は見たことがない。

泥まみれのトレーラーに乗って、雨の日にも欠かすことなく畑に向かうじいちゃんの姿。
道路に残るタイヤの跡がかっこよくて、その跡を踏みながら畑についていくのが好きだった。
たったの5kmでも、そこにはじいちゃんの人生が詰め込まれている。

60歳を目の前にしたある日を境に、
じいちゃんはじいちゃんであると同時に、
僕ら兄弟の母親になった。

どれほどの苦労があったことか、想像したって追いつかない。
あまりに幼かった僕ら兄弟は、そんな苦労を顧みず、
ただひたすらに迷惑をかけた。

そしてありがとうを言うこともなく、いつの間にか時間だけが経った。

12月半ばの土曜日、
お腹回りがきつくなった黒いスーツに白いネクタイを締めた
じいちゃんと一緒に宇都宮まで出かけることになった。
本当に本当に久しぶりの遠出だったと思う。

足が痛い足が痛いとぼやき続ける車内でもどこか嬉しそうで、
はやる気持ちを抑えられず、
また赤信号か、まだ着かないのかと言っていた。


兄の結婚式だった。
最高に素敵なお嫁さんが我が家にやってくることになった。
兄ちゃん史に残るファインプレーだな。

披露宴の最後に、新郎新婦互いの両親へ花束贈呈があった。
本来誰も立たないはずの場所に立っていたのはじいちゃんだった。

生まれて初めてもらったという花束を握りしめて、
じいちゃんは何度も兄ちゃんにありがとうと言っていた。

「ありがとう」という言葉はいつもじいちゃんの側からやってくる。

2人で家に帰ってから
泣くのをこらえるのが大変だったと言っていた。
そう言って目を潤ませながらも、
孫の前でまた涙を堪えるじいちゃんは
最高にかっこいい。

残るはお前だけだなとボソリと言った。
結婚願望はあるけど、相手がいないと僕は言った。
それが一番大事だと、これ以上ない正しいツッコミが返ってきた。

これからもご心配おかけしますので、どうか、どうかお元気で。


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by fuming_century | 2009-12-29 03:21